Tom

今週のお題「わたしのインターネット歴」


トムが外人なのか、その振りをした日本人なのかなんて、どちらでもよかった。


チャットで彼(?)が返してくる言葉は、英語が全然分からない僕には、何行かのアルファベットの並びにしか過ぎなかったのだ。


最初は日本語での会話を試みていたが、キーボードがバグって、というか変なキーを押してしまって、かな入力ができなくなり、「sumi masen nihongo utenaku narimasita」みたいに半角ローマ字語で話しているうち、なんというか、だんだん外人気分になっていった。


相変わらずトムは早打ちの英語で返してくる。そして相変わらず分からないが、外人のノリでいると、何かに同期できるような感覚が芽生えてきた。

そしてとうとう、むしろ意味なんて邪魔じゃないのか?ーに行き着いて、「Ay gah www cc!」みたいな、日本語でも英語でもない、言葉が並んでるだけの、いわば外人語が飛び出した。


トムは普通の外人(設定)だから、しばらくは困惑した様子で、それでも英語をキープしていた。

だが彼も最後には、「*9p!ro bo ro bo」と了解してくれ、僕と同じ外人になった。


それからの会話には、普通の意味での意味が欠けていたが、日本語と英語よりも、片方がわかって片方が分からないコミュニケーションよりも、外人語としての言葉が成立していた。

わかるようでわからないやりとりで、何かを伝えられた気がしたのだ。


あれ以来、トムとは会っていない。もう20年前になるが、あの時はじめてインターネットに触れて、なぜそんなチャットに行き着いたのか、知る由もない。


だがトムは、そして外人語は、今でも僕にとって、インターネットの象徴であり、ある意味では正体ですらある。